お問い合わせ用マーク

「AI使えば簡単でしょ。契約書作っておいて」―その仕事、本当に“書類作成”だけですか?

URLをコピーしました!

AIで契約書作成を内製化。そのとき、「誰がどこまで決めるか」も決めておきたい。

AIで契約書を作るよう依頼する社長 AIを使って契約書を作成する総務担当者 契約条件の判断まで求められて戸惑う総務担当者 契約条件もAIで決めればよいと考える社長と困る総務担当者

「AI使えば簡単でしょ。業務委託契約書、作っておいて」

法務担当者のいない会社なら、総務や事務の担当者にこんなふうに頼むことも多くなってきていると思います。

実際、生成AIを使えば、仕事内容や報酬などを入力して、契約書のたたき台を作るところまではかなりやりやすくなりました。

問題は、その先です。

契約書を形にしようとすると、

「途中でやめるなら、30日前の通知にする? 60日前?」
「損害賠償はいくらまで負う?」
「制作物の著作権は相手に渡す?」
「追加の仕事は、今の料金に含める?」

といった話が出てきます。

ここまでくると、もう「文章を作るだけ」の仕事ではありません。

総務担当者からすれば、

「これは私が決めていいことなの?」

となっても不思議ではありません。

このコラムで考えたいのは、「AIで契約書を作らないほうがいい」という話ではありません。 むしろ、筆者はAIを使って社内の仕事をどんどん効率化していくべきだと思っています。

ただ、 「契約書を作っておいて」という仕事の中には、会社として判断すべき取引条件が含まれています。

この点を分けないままAIだけ導入すると、思っていたのとは違う形で、 判断する仕事まで現場へ移ってしまう ということが起きます。

AIで文章は作れる。でも、取引条件までは勝手に決まらない

契約書のたたき台を作る。
長い文章を要約する。
気になる条項を拾う。
複数の案を出してもらう。

こうしたところでは、AIはすでに使われています。

ドキュサイン・ジャパンが2025年に全国の契約業務経験者300人を対象に行った調査でも、契約業務でAIを活用する企業は4割を超えていました。 AIの利用場面では、契約書レビューが約6割、ドラフト・たたき台の作成が52.4%、既存契約からの情報抽出・要約が51.6%とされているそうです。

法務部を持たない中小企業にとって、AIは非常に便利な道具だと思います。

以前なら、一から契約書を書こうとして手が止まっていたところを、AIがたたき台まで持ってきてくれる。

しかし、たとえばAIから、

「損害賠償の範囲には上限を設けることを検討してください」

と指摘されたとします。

では、いくらにするのか。

契約金額を基準にするのか。別の上限を決めるのか。そもそも今回の取引で、どの程度のリスクを会社として引き受けるのか。

それは、「一般的にはどうか」で決めるものではありません。

取引金額や利益、想定される損害、事業への影響、相手との関係など、会社ごと、取引ごとの事情が関わってきます。

AIが案を出すことと、会社としてその案を採用することは別です。

この二つを分けて考えるだけでも、契約実務でのAIの使い方はかなり変わります。

社員を楽にするつもりが、判断まで任せていないか

「AIでできるなら、社内でやった方が早い」

社長がそう考えるのは、不自然なことではありません。

外部へ頼む手間やコストを減らせる。作業時間も短くなる。社員にも新しいツールを使ってもらえる。

社員の負担を軽くしたいという意図で、AIを利用して社内で契約実務を完結しようとする会社もあると思います。

ところが、文章を作る負担が減っても、 「この条件で取引するか」を決める仕事 は残ります。

契約書を完成させるためにAIから選択肢を示されると、その一つひとつについて「会社としてどちらを選ぶか」を考える場面が出てきます。

「社員を楽にしたい」が、「社員に決めてもらう」に変わってしまう。

そんなねじれが起こってしまいます。

AIに何をやらせるかという「作業の分担」は決めていても、 誰が何を決めるかという「意思決定の分担」までは決めていなかった。

もし自社で思い当たるところがあるなら、見直したいのはAIそのものより、こちらかもしれません。

契約書をビジネスの言葉に直すと、かなり経営の話になる

契約書には、法律用語が並んでいますが、実際に決めていることをビジネスの言葉に置き換えると印象が変わります。

契約書に出てくる条件 実際に会社として考えていること
損害賠償の上限 何かあったとき、会社としてどこまで損失を引き受けるか
中途解約 この取引が合わなくなったとき、どの程度で抜けられるようにするか
著作権 作ったものを、この先誰がどこまで事業に使えるようにするか
追加作業 どこまでを今の料金で引き受けるか
支払条件 売上がいつ現金になるか、支出がいつ出ていくか
契約期間・更新 この取引関係をどこまで続けるか

たとえば、月10万円でSNS運用をお願いするとします。

契約書に、

必要に応じて修正対応を行う。

と書くこと自体は難しくありません。

しかし、「必要に応じて」が月2回程度なのか、何度でも同じ10万円なのかでは、取引の中身が違います。

これは言葉遣いの問題というより、発注側なら10万円でどこまで依頼するのか、受注側ならどこまで対応すれば利益が残るのかという話です。

つまり、 契約書には「この条件でビジネスをやる」という会社の経営判断が書かれています。

そう考えると、「契約書作っておいて」という仕事が、単純な書類作成ではないことが見えてきます。

契約書を作ると、会社の「まだ決めていないこと」が見えてくる

契約書を作ろうとして初めて、

「そういえば、ここは社内で決めていなかったな」

と気づくことがあります。

契約書が難しいから答えられないのではなく、 そもそも取引のルールとして答えを持っていなかった というケースです。

さらに、

「これは担当者が決めるのか?それとも社長に戻すのか?」

という問題も見えてきます。

・業務内容や金額、スケジュールなど、すでに決まっている事実は担当者が整理する。
・どの条件なら会社として取引するのかという部分は、必要に応じて経営側へ戻す。
・契約書への落とし込みや法的な意味で迷うところは、専門家に確認する。

この役割分担が少しずつできてくると、契約業務が発生するびに、毎回ゼロから考え直す必要も減っていくのではないでしょうか。

過去の取引を踏まえて、

・「この種類の案件なら、まずこの条件を基本にする」
・「ここから条件が変わる場合は責任者へ戻す」

といった自社なりの基準を持てるようになるからです。

経営判断の前提となる取引条件が整理され、「誰が決めるか」も見えている方が、契約のたびに社内で止まるのを防げます。

契約書を作る過程は、 自社の事業計画、ビジネスルールがどこまで整理されているかを見る機会にもなる と思います。

「契約書作っておいて」で起きやすい4つのずれ

ここまでの話を社内の動きに戻してみると、起きやすいのは主に4つです。

1.担当者が知らないうちに取引条件まで決めてしまう

AIから示された選択肢を埋めていくと、その内容がそのまま会社の契約案になることがあります。

担当者としては契約書を完成させるために入力しているだけでも、実際には会社の条件を決めている。

文書作成を任せるなら、「ここから先は社長へ戻す」という線も一緒に決めておく方が、担当者も動きやすくなります。

2.「AIがそう言ったから」が社内の判断基準になる

AIから、

「一般的にはこの条項が入っています」
「こちらの方が安全です」

と言われることがあります。

こうした情報は参考になりますが、会社によって取れるリスクも取引の重要性も、事業のフェーズも違います。

一般論を知ったあとに必要なのは、 「では、うちはどうするか」 という判断です。

3.経営者自身が、会社の約束から離れてしまう

契約書を「法的な文章を整える作業」として担当者へ渡しきってしまうと、締結後になって、想定していなかった条件に気づくことがあります。

AIの文章が正しいかどうか以前に、経営側が「この会社は何を約束したのか」を把握していることは重要です。

契約書は、完成したらファイルへしまうだけの書類ではなく、実際の取引で使う条件そのものだからです。

4.担当者に権限はないのに、判断する仕事だけが増える

文章を書く時間はAIで減ったとしても、AIの回答を確認したり、複数案を比較したり、分からない部分を調べたりする仕事は残ります。

さらに、「これは自分で決めていいのか、それとも社長へ戻すべきなのか」と迷えば、それ自体も仕事になります。

ドキュサイン・ジャパンの2025年調査では、契約業務でAIを利用する際の負担として、 「AIの出力結果を人間が詳細に確認・修正する必要があり、二度手間になっている」と 「AIが契約の背景や取引の特殊性を理解できず、的外れな修正や提案が多い」が、ともに47.6%でした。

この数字から、「AIを使うと社員が疲弊する」とまで言うことはできません。

ただ、決裁権限のない人が、自分では決められない条件について調べ続け、判断まで求められている状態は、見えにくい業務負担の一つにはなり得ます。

これは単に「総務が大変」という話ではなく、 判断する人と、実際に判断を求められている人がずれている という経営上の問題でもあります。

契約書作成を内製化するなら、「誰がどこまで決めるか」も決めておく

法務部のない小さな会社では、契約書が必要になるたびに、すべてを専門家へ依頼するという運用は、予算やスピードの面で現実的ではないことも多いと思います。

だからこそ、AIやひな形を使いながら、できるところは社内で進めたい。 生成AIが使いやすくなったことで、契約書作成を内製化しやすい環境も整ってきました。

ただ、AIを使って契約書を作っても、 「この条件で取引するか」を決めるところまでAIに任せられるわけではありません。

AIが複数の案を出したとしても、どの案を採用するのか。 その条件で会社としてリスクを引き受けるのか。 取引先にどこまで譲るのか。

最後は、自社の事情を踏まえて会社が決めることになります。

そこで大切になるのが、AIを使うかどうかだけではなく、 社内で誰がどこまで判断するのかを分けておくこと です。

誰が 主にすること
AI たたき台、要約、論点出し、案の比較
総務・現場担当者 業務内容、金額、日程など、すでに決まっている事実を整理する
社長・責任者 どの条件なら取引するか、どこまでリスクを取るか、どこまで譲るかを決める
外部の専門家 条項の意味や法的な論点、契約書への落とし込み、会社が判断するための材料を整理する

目指すのは、総務担当者が契約書について何でも判断できるようになることではありません。

行政書士

「これは自分で処理する」「ここからは社長に戻す」「ここは専門家に確認する」。この線が見えていると、担当者が契約のすべてを背負わずに済みます。

たとえば、「会社が負うリスクが大きく変わる条件は担当者だけで決めない」「通常の取引条件から外れる場合はいったん責任者へ戻す」といった程度からでも始められます。

どこを社長決裁にするかは、会社の規模や業種、取引額によって違って当然です。

「一般的にはどこまで担当者が決めるのか」を探すことより、 うちでは何を担当者だけで決めないのか を明らかにする方が、実務では使いやすいと思います。

そして、社内だけでは判断しにくいところが出てきたときに、外部の法務専門家を使う方法もあります。

外部の専門家も、「契約書を全部任せる相手」としてだけ使う必要はありません。

AIやネットで一般論までは調べたものの、 「今回の取引では、この条件をどう考えればいい?」 という一点だけが残ることもあります。

そんなときに、条項の意味や選択肢、考える材料を整理するために専門家へ確認する。

社内で進められるところは進め、社内で決めるべきことは社内で決め、迷うところだけ外部の専門家を使う。

法務部を置かない小さな会社では、こうした使い分けの方が現実の契約実務に合う場合も多いのではないでしょうか。

※行政書士は、各種契約書など権利義務に関する書類の作成や、それに関連する相談を取り扱う専門家です。 一方、相手方との代理交渉や紛争対応など、行政書士の業務範囲を超えるものについては、案件に応じて弁護士など適切な専門家への相談が必要になります。 当事務所でも、内容に応じて適切に対応いたします。

AIには、「ほかにある?」といくらでも聞けてしまう

AIを契約業務で使っていると、別の問題も出てきます。

「ほかに注意点は?」
「もっと安全にするなら?」

と聞けば、さらに提案してくれます。

これは便利なのですが、仕事としては困ることもあります。

契約書の目的は、考えられるリスクを際限なく集めることではありません。

今回の取引で確認すべきことを整理し、会社として条件を決め、契約を進めることです。

AIの側から、

「御社なら、ここまで確認すれば十分です」

と区切ってくれるわけではありません。

だから、

・今回はどこまで確認するか。
・どこから社内決裁へ戻すか。
・どんなときに専門家へ確認するか。
・何が済めば、この契約作業は終わりか。

という終了基準を人間側で持っておく。

AI活用というと、「どう質問すれば良い答えが出るか」に目が向きがちです。

しかし、契約実務では、 AIとの会話をどこで終わらせるか も重要だと思います。

契約書を見ると、会社の事業の仕方が見えてくる

AIで契約書の文章を作ることは、以前より簡単になりました。

しかし、文章ができることと、会社の取引条件が決まっていることは別です。

契約書を作ろうとして何度も手が止まるなら、

・「法律が難しいから」だけではないかもしれない。
・そもそも会社としてまだ決めていなかった。
・誰が決めるのかが曖昧だった。

ということもあるかもしれません。

AIを導入するときには、 「AIに何を任せるか」だけでなく、「誰が何を決めるか」も一緒に考えておく。

そして、実際の取引を重ねながら、「うちではこうする」という基準を少しずつ蓄積していく。

そうすれば、次の契約のたびに検索やAIとの会話をゼロから始めずに済みます。

契約書は、トラブルになったときだけ取り出す書類ではありません。

会社の取引条件を整理し、日々の商売を回していくための道具でもあります。

法務部のない会社では、契約書をそんなふうに使っていく方が、実務にも合っているのではないかと思います。

契約書について「あと1点だけ」残ったときに

社内で考えられるところまでは整理した。
一般論もAIやネットで調べた。

それでも、 「うちの取引ではどう考えればいい?」 が一つだけ残ることがあります。

契約書全体を専門家へ依頼するほどではないけれど、その一点だけ専門家に確認したい。 そんな場面もあると思います。

かなぱす行政書士事務所

「一般論は分かったけど、うちの取引ではどう考えればいい?」が残ったときは、かなぱす行政書士事務所をお頼りください。必要なところだけ、一緒に整理します。

契約書全体の作成・レビューのほか、契約書について「ここだけ確認したい」という1テーマのご相談にも対応しています。

契約書について「あと1点だけ」確認したい場合は、 契約書ミニ質問 もご利用いただけます。

1テーマ 3,300円(税込)/会員登録不要・月額料金なしの都度払い

意思決定のスピードが重要な中小企業を、法務の面からお手伝いできれば幸いです!

※ご相談内容によって、契約書全体との関係を確認する必要がある場合や、行政書士の業務範囲では対応できない場合があります。その場合は、お支払い前にご案内します。

参考・出典

・ドキュサイン・ジャパン「契約業務におけるAI活用の実態調査2025」。 調査実施期間:2025年8月8日~11日、対象:全国の契約業務経験者300人。 2026年9月7日確認

・東京商工会議所「中小企業の法務対応に関するアンケート調査」 2019年3月25日公表。 2026年9月7日確認

・日本行政書士会連合会「契約書」 2026年9月7日確認

※本記事における法律・制度に関する記述は、2026年9月時点の法令・公的情報に基づき執筆・編集されたものです。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の案件について法的判断を示すものではありません。
※実際の取引や契約締結にあたっては、個別の事情に応じて専門家へご相談ください。

URLをコピーしました!
この記事を書いた人
林 佳奈
かなぱす行政書士事務所
林 佳奈

スパルタ教育の法科大学院で磨き上げた「分析力」と、逆境に立ち向かう「不屈のメンタル」が自慢の行政書士です。趣味は似顔絵作成。


投稿日

カテゴリー:

,

投稿者: